昨今のTPP騒動の中で、「外国の力を国内に意図的に引き込んで、日本の政治を動かしてやる」と公言する官僚が現われた。国益のために奉仕すべき官僚が、こともあろうか米国からの“ガイアツ”を頼み込んでまで、国家ひいては自由民主主義に反逆を試みたわけである。
官僚とは本来、だれかれの区別をせず物事を計量的、非人間的かつ機械的に処理をする職業のことであり、リスクを冒してまで予想不可能なことに対処するのは政治家の役目である。著者の中野剛志氏が哲学者のオルテガ・イ・ガセットやマックス・ウェーバーの言を引きつつ時代を経て移り変わる官僚像を熱く論じる。
「官僚主導から政治主導」「官から民へ」と喧しく叫ばれる現代の風潮の陰で、世界が“マクドナルド化”しつつあると中野氏は説く。何から何まで一律の規格で計算・予測可能、そして支配的(メニューに客の選択肢が少ない)という構造が組み上げられているマクドナルド。これこそグローバリズムを明確に象徴している構造であり、マクドナルド化とする以上、先に挙げた官僚批判という名の構造改革は、実は規制緩和や自由化を伴う官僚制化に他ならないというのだ。
本書では、こうした官僚制の本質を政治・経済・行政などの分野から鋭い考察がなされている。思想哲学的な側面が強く、不幸にして私自身の知識不足ゆえ、どの程度理解・得心が及んだかについて意見を明確にすることはできない。だが、少なくとも、リーマンショック、ユーロ危機、そして日本の失われた二十年を経て官僚制支配が破綻し、大衆が唾を飛ばし合いながら時間をかけて議論を重ねる「自由民主政治」のあり方がクローズアップされてきていることだけは確実だ。