冷戦が終結し大国同士による全面戦争の危機は影を潜めたと言っても、世界各地では民族同士の地域紛争や宗教絡みのテロ行為、また尖閣諸島をはじめとする局地的な係争など、戦争の火種はいまも消えることがない。こうした世界情勢を伝えるテレビや新聞などからは、駆逐艦、戦闘機、自走砲、領空、領海、一個師団、大隊、中隊、統合幕僚本部などといった戦争用語が、視聴者、読者が知る知らずに関わらず垂れ流される。果たして、我々は、そうした用語についてどれだけ理解し、またどれだけ誤解しているのだろうか。元自衛官で軍事ジャーナリストの鍛冶俊樹氏が、戦争全般を知る上での基礎用語をわかりやすく解説する。
まず地政学や安全保障といった国防の概念からスタートし、軍隊、兵隊、陸軍、海軍、空軍といった軍事における伝統とも言える分野を網羅したのち、現代戦(核戦争、情報戦争など)、自衛隊という現状における戦争のトレンドを詳述。本書の刊行が2005年なので、タイムリーでないのは仕方ないところではあるが、軍隊のあり方や規範、階級、装備、兵器などは普遍的要素があるので、基本的な情報としては十分と言えるだろう。私のような軍事オンチが混同しがちな、戦車と自走砲、駆逐艦と巡洋艦、戦闘機と攻撃機、軍法会議と軍事裁判などの違いについても万遍なく触れられており、読後はちょっとした軍事通を気取れるようになれるから面白い。また、鍛冶氏の解説が簡潔で読みやすいので、特に戦争に関心はないが教養として読みたいという方も十分楽しめるであろう。
ただ、そうは言っても、読んで知識を得て終わりというのでは芸がなさ過ぎる。こうした軍事知識は一部の専門家やミリタリーオタクだけの専売特許という共通認識がいまの日本に蔓延しており、大多数は戦争や軍事と聞くと途端にアレルギーを起こして耳を塞いでしまうという現状は大いに問題だ。「戦中派が培ってきた知恵が急速に失われるにしたがって、軍事や安全保障の問題で無用の問題が起きている」と、鍛冶氏が巻末にて警鐘を鳴らしている。要するに現代人は、戦争は軍人がやるものであって一般の民間人には関係ないと思い込んでしまっているのだ。現実はさにあらず。戦争とは、軍隊や兵器同士がぶつかる戦いのみを言うのではなく、役所や企業、言論界、市井、家庭をも巻き込んだ「総力戦」となるのだ。戦争の知識を得ることで国防に対する意識をさらに高めたい。