軍事政権から民政へと移行したことにより経済制裁が解除され、海外からの投資ラッシュに沸くミャンマー。欧米の制裁に追随し一時撤退していた日本からも、反日暴動のリスクがある中国の代替地として一気に注目を浴び、数々の日系企業の進出に向けた視察がうなぎ登りに増えている。ここに至り、俄然企業家たちの関心を呼び起こすこととなったミャンマーであるが、国内情勢は軍政の情報統制によりあまり知られることがなかった。経済評論家の三橋貴明氏が、この「アジア最後のフロンティア」と称されるミャンマーに実際に赴き、経済や投資、インフラなどの国内環境はもちろん、その地理や歴史にまで視点を広げ、ミャンマーの現状についてレポートする。
三橋氏は、まずミャンマーの道路を走る自動車に目を付ける。そのほとんどが日本車(中古)であり、いずれも何十年も前の年季もの。この面だけを見ると単に「貧困」という言葉を連想するだけだが、別の面から見ると、どうしても日本車でないといけない理由が浮かび上がってくる。それがミャンマーの道路事情。最大都市のヤンゴンですら、路面のところどころが穴だらけで、走るたびに車内が上下に激しく揺れ、快適なドライブなど夢のまた夢であるという。コンクリート打ちっ放しという、およそドライバーの心情を考えていない敷設も問題だが、それでもたとえ中古でも頑丈な日本車であればなんとかなるのだ。日本車ばかりだから道を葺き替えなくていいというわけではないが、中国や韓国など他国の二流車であったら、そもそも物流の概念が根底から覆されるだろう。なお、これだけがその要因ではないだろうが、ミャンマー人の親日度は相当高いという。
次に、電気の問題を取り上げる。これも道路と同じく、利便性がまったくもって悪い。送電網の不備という課題もあるが、何より国民の生活を一日中賄うだけの発電が絶対量が足りない。ヤンゴンで停電が頻発するというのはまだいいほうで、地方に行くと電気そのものが供給されていないケースもあるという。日本が工業団地の造成を予定しているティラワでも状況は同じで、そもそも電気をはじめとするインフラが未整備なので、実際に工場が稼働できるようになるまで相当な時間が要されると目している。
このほか、三橋氏はミャンマー各地をめぐりながら、季候、民族構成、観光地、食習慣など、経済書ではなく旅行記かと思わんばかりの記述を続けていく。こうした中で、三橋氏が結論づけたのは、「ミャンマーが真の意味でのフロンティアになるにはまだ時間が必要」「日本人と親和性のあるミャンマー人と協働関係を築くことで日本の安全保障につながる」ということ。詳しくは本書で確認してほしいが、いつものように日本経済崩壊論者をバッタバッタと舌鋒鋭く切り捨てる、例の三橋節は今回影を潜めている。ただ、マイルドな(比較的)語り口だからこそ、純粋にミャンマーについて知りたい方が手に取っても読みやすい一冊になっていると思う。技術不足でインフラがつねに不安定なミャンマーと、規制緩和と構造改革で伝統ある技術を毀損しつつある日本を重ね合わせながら、読み進めていくことをお勧めする。