夢をかなえるゾウ3 ブラックガネーシャの教え

水野敬也

「自分、覚悟でけてるか?」「自分、夢かなえたいんやろ? せやったら、それ相応の『痛み』ちゅうんが必要になるわいな」。著名な占い師に高額で売りつけられた象型の銅像から突如現れた、インドの神ガネーシャ。自分を変えるため「こんな人生嫌だ!」と勇気を振り絞って購入に踏み切った主人公だったが、その黒光りする異形、コテコテの関西弁、無断で自宅に居座るという、図々しさ全開のガネーシャを前に、ただただたじろぐことしかできない。そんな彼女を気にかけるふうもなく、ガネーシャは最初の課題を出す。「今から3分やるわ。それまでにこの部屋で『必要な物』言えや。言わんかったもんは破壊するで」。冷静になれないままガネーシャに従い、必要な物を挙げていく主人公。ひと通り言い終えたあとで、ガネーシャは対象となっていなかった物を本当に破壊していく。オーブンやワンピースなど、主人公が悲鳴を上げるのも構わず、破壊の手を止めないガネーシャ。この部屋にあるものはほとんど「ちょっと欲しい物だけ」。そうであるうちは、本当に欲しい物など一生手に入らない。これを皮切りに、主人公はガネーシャから「夢をかなえる」ための課題を与えられていく。

苦手な分野のプラス面を見つけて克服する、目標を誰かに宣言する、うまくいっている人のやり方を徹底的に真似るなど、数々の課題をこなしてはいきながらも、その反面、ガネーシャの強引さに振り回されていく主人公。普段は絶対に口にしない超激辛カレーを食べさせられるも、「ええか? 本気で夢かなえよう思たら、乗り越えられへんように思えるしんどいことも出てくんねん。そういう困難を自分にとってプラスととらえられるか、それが勝負の分かれ目やねんで」と正論を吐いてくるから従わざるをえない。主人公は、こうしたショック療法的な課題にその都度閉口するも、なんとかこなしていく。そんな中、憧れの男性をめぐって勝負することとなった主人公。そこに黒ガネーシャという強敵が参戦し、勝負の幅も広がっていき、ついには人生を賭けた大一番となってしまう。これまでまったくの畑違いと思っていた、人前での高額商品の販売。めげる主人公に、ガネーシャがそっとアドバイスする。「成功するために一番大事なことは――『小さな勇気』やねん」。

シリーズ3作目の本書。軽妙な文体とユーモアは相変わらずで一気に読むことができる。だが、そんな中でも、速読スタイルで読み飛ばすにはもったいないほど、含蓄にあふれていることは見逃してはならない。ガネーシャをはじめ、お笑い芸人のようなキャラが多数登場する本シリーズにおいて、一貫していることが「夢をかなえるためには辛いことや苦しいことは、決して避けられない」ということ。そして、乗り越えた先にあるのが「もうひとつの人生」。苦しみを楽しみに変え、自分で工夫することで、他の誰にも真似できない魅力や価値を手に入れることができる。これこそが、実際に、成功者と呼ばれる人たちがみな通ってきた道なのだ。


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