主人公の裕子は、旅行代理店に務めるキャリアウーマン。部内で主任を任されるほどバリバリ仕事をこなし、周囲から一目置かれた存在であると裕子自身は思っていた。だが、上司が矢嶋に替わってからというもの、仕事に行き詰まるようになってしまった。同期の中でも頭ひとつ飛び抜けた存在で、できない人間をばかにすることもある自信家だったが、一度失敗して矢嶋に怒鳴られてからというもの、ミスを連発するようになった。怒られると身体が縮み上がってしまい、やることすべてが怖くなり、またミスを犯す。いつしか裕子は、このような悪循環が続くのはもう耐え切れない、ここから逃げ出したい、いっそ会社を辞めてしまいたい、そう思うようになっていった。そんな中、裕子は矢嶋から主任降格を言い渡される。新しく主任に就任したのは、同い年の久美子だ。これまで見下していた久美子の部下となった裕子のプライドは大きく傷ついた。
「あなたの問題は、あなたがつくり出している」「あなたのまわりにいる嫌な人こそ、本当のあなたを知るカギとなる」。以下、本書は、絶望の淵に追い込まれた裕子が、心理カウンセラーの資格を持っている義兄との対話を通じて、自分自身を包んでいる光と影のバランスについて学び、ささくれだった心を癒していく。「私は間違っていない」が口ぐせになっていることを指摘された裕子は、自身が被害者の心境となり、勝手にまわりの人たちを「きっとこう思っているはずだ」と決めつけ、すべての人たちを敵と見なし孤立していっていることに気づきはじめる。また、自分の弱い本音を隠そうとするから「こうするのが常識だろう」と相手を攻撃する。だが、相手はそうされたら心を閉じるか反撃してくるので結局ケンカになってしまう。そんなときは、相手に自分の素直な気持ちを伝えることだ。素直に「助けて」と言えばいい。そう伝えることは、実は人助けになるし、助けを求める好意が人に喜びを与えることにもつながるというのだ。
「人はいろんな要素が集まってできているパズルみたいなもので、その中のいくつかのピースを、形や色が嫌いだと言って捨てているだけです。その外で暴れている捨てたピースが苦手な人なんです。だから、そのピースを拾って自分の中に戻してあげるイメージをするだけで、本当の自分に戻っていきますよ」。裕子は、本能的に無意識的に排除していた、自分の嫌いな人と向き合うようになる。
思い当たるフシは数多くあった。本書を一読して人生が一変するほどの気付きを得られたかというとそういうわけではないが、それでもやはり私自身、つねに嫌な場所や人から距離を置いているし、接触がなかったことを小さな安心と捉えている自分もいる。何かに対して引け目を感じるということは、まったく別の何かを解決すれば解消するのではなく、嫌だと思っている対象に向き合わないかぎり一歩前へ進めないのだ。嫌なことを別のことで上書きすることはできない。物事の解決の糸口は、実は目の前にあるということは知っておきたい。