平凡なサラリーマンである主人公の前に突然現われた、半人半象という外見を持った奇妙な生命体。自らインドの神・ガネーシャを名乗るや、「自分、変わりたいと思うとるんやろ? だがこのままやと成功でけへんで」と関西弁でまくしたて、主人公のアパートに居座り主人公が「変われる」ための課題を1日ひとつずつ与えていく。ふたりのやり取りは関西漫才のボケとツッコミそのもので、図々しいガネーシャに草食系の主人公があれこれ振り回されるという生活が始まる。
ガネーシャが主人公に与える課題は、「トイレ掃除をする」とか「コンビニで募金をする」など、自己変革に直接つながるとは思えないものばかり。半信半疑の主人公はぶつぶつ言いながらこなしていたが、やがて「自分が一番得意なことを人に聞く」や「誰か一人のいいところを見つけてホメる」など、直接他人からの評価が返ってくる課題に至ると、自分が変われるためのきっかけをつかめるようになる。だが、おぼろげだった意識がだんだんと形になりだした頃、ガネーシャは「このままわしがおったら、甘えられてばっかりでかなわん」と言い放ち消えていく。
僕は自己啓発本があまり好きではなく滅多に読まない。というのも、著明な成功人が書く啓蒙書はどこか高邁で説教臭く、逆に興ざめしてしまい萎縮してしまうからだ。だが、この本は軽快かつユーモアのある文体であるのと同時に、課題の内容が誰でもいつでもできるものとなっているため「もしかしたら僕でも!」とワクワクさせられ一気に読めた。実は書いてある内容はどの成功哲学書とほとんど同じなのだが、おそらく作者自身(僕と同い年)が人生において相当試行錯誤してきたんだなという汗臭さが伝わってきたことにいちばん心引かれた。
とりあえず騙されたつもりで、まずは自宅のトイレ掃除から始めてみようか。「やらずに後悔していることを今日から始める」はガネーシャが最後のほうで出した課題なのだが、「やらずに後悔していること」というのは決して壮大な構想のことではなく、往々にしていちばん身近なことだったりするわけだから。