「技術レベルだけなら、日本のほうがはっきり言って勝っています。iPhoneにしても日本の技術がないと作れないというのは有名な話で、あの機器の中にはかなりの日本の部品が使われています。それならなぜ日本人にあれが作れなかったかというと、それはもうアップルがビジョンや政策のレベルで考えていて、現場思考だけでは何もできないことを知っていたからです。」
製品の小型化やブラッシュアップに関しては日本の専売特許であるが、中長期的なプラン策定ならびにブランド戦略の面では欧米人にかなわない、とはよく言われる話だ。現に、ソニーのウオークマンをはじめとする各企業の先端技術が日本の戦後高度経済成長を牽引してきたわけだし、その反面、米国ではテレビを製造する会社が1社になってしまうほど製造業が斜陽化した。
だが、技術とはいずれ模倣されるものであり、たとえ日本が一時的に優位に立ったとしてもすぐに人件費の安い後進国に取って代わられる。家電業界が総崩れした現状を鑑みれば厳然たる事実に変わりはないが、この日本に欠けていたことがまさに「中長期的な視野に立っての戦略、あるいは企業の向かう先を定めたビジョン」という抽象的な概念であったのだ。地政学者の奥山真司が、国家・企業の「戦略の階層」をもとに、個人レベルに落とし込んだ人生の戦略論を語る。
タイトルにある“武器”とは技術のことである。日本人は、自らが培ってきた技術のおかげで高度成長を成し遂げたという自負があるため、世界経済市場がいくら変容しようとも技術革新に頼ろうとする。その結果どうなったか、明確な戦略ビジョンを持った欧米人に流通を押さえられ制度化されてしまったため、バブル崩壊を経た日本は浮揚するきっかけを失ってしまった。だからこそ、こうした現実を変えるには、日本人は技術を捨てるという発想を持たなければならない(放棄するという意味ではなく)。
具体的には、現在自分がいるポジション(たとえば新入社員)より上の階層(たとえば現場責任者、経営者など)に行くにはどうしたいいのかを抽象的思考、つまり自分はどうなりたいのか、あるいは自分とは何かというそもそも論で考察すること。その際、順次戦略(順を追って目標に到達する)、累積戦略(成果は小さくとも継続して大ブレイクを待つ)を絡めて実行することが要点となる。
詳しいプロセスについては本書に譲るが、つまりは、目の前の仕事だけをこなしていれば将来が開けるなどという考えでは一向にステップアップできないということ。大局観とは聞き慣れた言葉ではあるが、技術を追うあまり市場動向から目を逸らしていては、たとえイノベーティブな製品開発に成功しても、世界流通という大経路に乗せることはかなわないという話だ。私自身、経営者でも何でもないただの平社員だが、だからこそ著者の慧眼は傾聴に値すると感じた。さらに上に行くために、いや経営者の無能な判断からダメージを避けられるよう自らの戦略ビジョンをしっかり意識しようと思う。