協同組合として利益を追求する株式会社とは異なる理念に基づき、地元コミュニティにサービスを提供している農業協同組合(農協)。その農協は、協同組合の事業コンセプトに則り、各種の事業、あるいは各地区の事業をバランスさせ、トータルで収支の帳尻を合わせることで過疎地域での稼働を継続させている。これが株式会社であれば、単体で赤字になる事業分野や地域からは、撤退するのが最善の選択となる。当然のことながら、会社としての利益にならないからだ。これに対し、協同組合は利益最大化を事業目的としていないため、組合員や地域住民のために、多少の赤字が出たとしてもサービスを提供する。他の事業や地域における黒字で補填するという考え方になっている。したがって、日本の地域を消滅させたいのなら、農協をなくしてしまえばいいという話になる。農協がなくなれば、農業という地方経済の中心が瓦解するのはもちろんのこと、買い物や医療などのインフラが消滅し、地方は瞬く間に消滅することになるからだ。
「日本の農業、農家は世界で最も保護されている。農協の政治権力が強いためだ。だからこそ、農協は解体する必要がある」「全農(全国農業協同組合連合会)が、独占的に農家や農協に高く農薬や肥料を売りつけている。だからこそ、農協改革が必要だ」。農業や農協に関する理解が浅いと、マスコミがこのように言い立てると何となく賛同してしまうのも無理はない。だが、これらは完全に嘘である。日本の農家に占める「直接財政支出」の割合は、主要国の中で最低。欧州はもちろんのこと、アメリカよりも少ない。さらに、日本の農業には、アメリカが採用している輸出補助金制度はない。日本ほど農業を保護していない主要国はない、というのが真実なのである。そんなな中、アメリカの金融業界は、農林中金やJA共済という巨大マーケットを喉から手が出るほど欲しがっている。2015年農協改革で、将来的に農協の金融事業の市場に、アメリカ金融業界が参入するための布石が打たれた。
日本国民が主権を失い、亡国に至る主な道はふたつある。安全保障の強奪、そして地域消滅だ。地域消滅はそのままの意味だが、安全保障は国土を外国から守る防衛面だけに限らない。大規模災害から守る防災安全保障、国民の安定的にエネルギーを供給するエネルギー安全保障などのほか、国民を飢えから守る食料安全保障も含まれている。さらに、過疎地に農協があり、地域住民に赤字覚悟でサービスを提供しているからこそ、その地域から住民がいなくなることを回避している。これも安全保障のひとつだ。こうした安全保障の一角を担っている農協を解体し株式会社化することで外資参入を促し、レント・シーキングの草刈り場とするのが農協改革の本旨なのだ(少なくとも外資から見れば)。本書では、あまり知られていない農協の組織や役割を詳述したうえで、安倍政権の新自由主義的政策により外資に蝕まれようとしている農協改革の危険性を指摘していく。これは単に、農協という組織が解体され外資の食い物になるだけでなく、私たち日本国民の安全保障にも直結した問題なのだ。畢生の問題作と題した、この三橋貴明氏の渾身の訴えをすべての政治家に届けなければならない。