新しい国へ 美しい国へ 完全版

安倍晋三

昨年末の総選挙での大勝利を経て、6年ぶりとなる総理大臣就任を果たした安倍晋三の政治観を記した一冊。2006年の総理就任前に上梓された「美しい国へ」の増補であり、巻末には再登板にあっての決意表明と言える論文が掲載されている。安倍支持派のひとりとして、そして、基となった「美しい国へ」が未読であったため、書店で見かけるや迷うことなくレジへと持っていった。

こういった保守論壇の書は親しんでいるものの、手を付けるのは保守系言論人のものであり、保守系政治家が書いたものは読まないことにしている(麻生太郎氏を除く)。というのも、たいてい「日本人よ胸を張れ」「歴史を学んで毅然たる態度を心がけよ」などという観念論に支配されるパターンがほとんどで、最終的には「日本人よ、目を覚ませ!」という、なんとも言えないこじつけが混じった叱責で締めくくられることが多いからだ。

その点、安倍は相当の努力を通して、戦後政治の変遷、ナショナリズムのあり方、世界史的視点での日米同盟、近隣諸国との外交について咀嚼しているということを窺い知れた。内容的には真正保守の視点からは特に目新しい記述は見当たらなかったが、本書から安倍の政治家としての魅力は、やはりなんといっても「意志の強さ」「実行力」「思慮深さ」にあることをまざまざと感じ取ることができた。

そうした安倍の姿勢に対して特に市場が正直で、民主党時代には1ドル75円まで高騰した円がたった1ヶ月で90円にまで持ち直し、日経平均株価も1万円台を回復した。また、実行力という面から言えば、東南アジア3カ国を歴訪している間、アルジェリア人質事件に鋭意対応し、無能政治家を使って世論の混乱を招こうとした中国からの嫌がらせに対しても泰然として動じない。

参院選までは経済対策に注力、そして選挙に勝利した暁に安倍が取り組むべきこと。それが、戦後レジームからの脱却、つまり憲法改正だ。安倍はもう動き始めている。憲法96条(憲法改正の発議要件)の改正という第一歩を踏み出した。そこに垣間見えるのは安倍の、決してぶれない強固な意志だ。


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です