内閣総理大臣・安倍晋三氏と小説家・百田尚樹氏による対談集。かねてから百田作品のファンだったという安倍氏と、雑誌「WiLL」に安倍再登板を望む論文を掲載していた百田氏。その両氏が「WiLL」の企画で二度にわたって対談を組み、国家観と歴史認識を共有しながら、戦後レジームからの脱却、そして今後の日本が進んでいくべき道を語り合う。
本書は、2012年の自民党総裁選前と2013年の参議院選挙後に行われた両氏の対談、百田氏の描き下ろし、安倍氏が各地で行った講演の原稿といった内容で構成されている。前半に収録されている対談では、第一次安倍政権時の苛烈なマスコミ報道や自民党総裁選への意気込み(当時安倍はまだ立候補を表明していなかった)、政権奪還後の経済・外交政策、そして憲法改正と靖国参拝への是非について言及。話はこれまでの安倍政権の足跡を振り返るという形をとる。さらに、『永遠の0』を読んで感動したという安倍氏が、百田氏の小説のテーマは「他者のために自分の人生を捧げる」ものだと評価し、両氏の会話は国家観、歴史認識へと及んでいく。
基本的に、対談集、論文集という体裁をとっているため、安倍氏と百田氏がいかに共通した理念を持って結ばれているかが主眼となっており、政治の深い部分をえぐったり批判したりしている類のものではない。百田氏の描き下ろしでは、民主党を舌鋒鋭く糾弾したり戦後体制の不合理を訴えたりするなど、読みどころは多い。だが、対談においては、「戦後レジームからの脱却ではわかりづらいから、自虐史観からの脱却に変えるべきだ」という、百田氏の安倍氏に対する注文があるくらい。激しい鍔迫り合いは期待しないほうがいい。本当はあるはずのオフレコの部分を読みたいのだけど、紙面に載せられるはずもなかろう。したがって、安倍氏の政治的足跡は『約束の日』『国家の命運』、百田氏が持つポリシーについては『永遠の0』『海賊とよばれた男』を読んだほうがより詳しいだろう。
なお、本書に掲載されている対談で最後に行われたのが2013年の参議院選挙直後。金融政策や外交政策などの成功により安倍政権の支持率がかなり高かった頃だ。だが、その後、消費税増税決定、新自由主義な成長戦略、東京五輪決定、TPP、そして年末の靖国参拝など、安倍政権を取り巻く状況は大きく変わった。もし、いまの段階で両氏が対談するとしたら、いったいどんな内容になるのだろう。非常に興味がある。