傷害致死による2年の刑期を終え仮出獄となった三上と、獄中の彼を陰ながら温かく見守ってきた刑務官の南郷。この2人がそれぞれの将来のためにタッグを組み、10年前の強盗殺人事件で死刑判決を受けたものの冤罪の可能性が残る樹原という青年の無罪を晴らすべく、事件があった南房総にて冤罪の証拠探しに奔走する。
死刑制度の是非、殺人を犯したにも関わらず死刑を免れたった2年で出獄となった青年の懊悩、自ら刑務官として2人の死刑執行に立ち会った刑務官の心の変遷、残された遺族のやるせない怒り、それに対して死刑確定犯に助命嘆願を行う遺族からの手紙・・・。わが国における極刑のあり方をめぐる、さまざまな立場を、巧みな心理描写で問題提起してくる作者の筆力は圧巻であり瞠目に値する。また、ストーリー展開も実に明快で、三上と南郷の友情を通して、死刑制度について深く考えさせる構成はさすがとしか言いようがない。
そんな中で、残念だったのが、半分くらい読めば真犯人が誰であるのかがわかってしまうこと。ところどころ散りばめられた伏線の発生と回収がわかりやすいほどに明瞭であるので、読者が「あっ」と驚くことを意図した場面であっても平坦に感じられ、そのままのペースで終話するという流れをたどる。ただ、非常に重いテーマをここまでのエンターテインメントに仕立て上げた手腕を評価すべきで、それをマイナス点とすべきではないだろう。初めて手にした作者の本だが、他の作品を読みたくなった。