いまや国際政治はアメリカと中国に振り回されていると言っても過言でなく、日本の命運もそうした両国のうねりによって根幹から左右されているという現実がある。私たち日本人が、自分の国の興亡の見通しをより良く感知するためには、どうしてもこれら米中の実態やせめぎ合い、すり寄りの現状を把握しておかねばならない。産経新聞ワシントン客員特派員の古森義久氏と同社中国特派員の矢板明夫氏が、米中それぞれリーダーの戦略や能力を分析しつつ、今後の米中関係の展望、そして中国からの攻勢に晒されている日本の立ち位置についても語り合う。
まず習近平について、トップに上り詰めることができたのは、出世争いにおける敵失と大物太子党という毛並みの良さのおかげと断じ、また自らの能力・実績不足にコンプレックスを抱いていると分析。それがゆえに国家主席としての威厳づくりに焦り就任早々の外遊を強行するが、ロシア、アメリカとの首脳会談で結果を出せず、あまつさえ日米を中心とした中国封じ込め政策を取られメンツを潰される始末。メッキが剥がれるのを恐れた習が選んだのが「脱・韜光養晦」。中国は鄧小平以来、韜光養晦(力がつかないうちは角を収めておく)路線だったのだが、遠くのアフリカ諸国などと手を結び日本を孤立化させる毛沢東外交を踏襲するようになる。建前としては経済発展を背景にした「大国中国が欧米に従う道理はない」という自信なのだが、本音は強い国家主席としての国内向けのアピールにほかならない。
一方のアメリカだが、対中戦略は盤石の態勢で臨んでいるというわけではない。なにしろ、オバマ政権は軍事戦略を全面に押し出す外交を得意としていない。外交紛争の解決においても多国間のアプローチを好み、対話・協調路線を非常に重視し、中国との対決はなるべく回避したいという傾向が強い。もともとオバマ大統領は国民皆保険制度に見られるように内政優先型であり、外交政策に全力投球するタイプではない。その傾向が端的に表れたのが2013年6月の米中首脳会談で、北朝鮮の核兵器開発の阻止では米中共同歩調を謳うにとどまり、最大の懸案だった中国によるサイバー攻撃問題についても全面的に糾弾することはできず逆に「中国も被害者です」と切り返されて終わった。これに対し、議会レベル、国民レベルでの中国に対する警戒心は相当強く、対中連携網や中国の軍拡に対抗した新戦略の構築については抜かりない。肝心のオバマが、これらの政策が中国をターゲットとしたものだと明言していないだけだ。
本書では、こうした米中それぞれのリーダーの特質を踏まえ今後の両国関係を紐解いていくが、どちらかと言うと中国国内の事例の紹介に比重が置かれ、それについてアメリカがどう見るかという流れで進んでいく。都市部で広がる経済的格差、人権活動家・陳光誠のアメリカ亡命の背後にあった米中間の裏取引、習と李克強首相との相反する経済政策、路線闘争の場となった薄煕来裁判をアメリカはどう見たかなど、新聞記者ならではの論理的かつ明確な文章で非常に読みやすく、また読み応えがあった。なお、注目は最終章の「日本は中国とどう戦い抜くのか?」であり、2011年の反日暴動で40、50代の中年の参加者が多かった理由、中国と有事になったら自衛隊の3分の1が辞めるだろうという自衛隊OBの話、日本の安全保障などの国益を守るために読んでおきたい日本の大手新聞についてなど、これまた新聞記者らしい現地取材で得た情報と視点に基づいた訴えは必読。米中の間で揺れ動く日本の行く末を占う上でも手にとっておきたい一冊だ。