図説アーサー王物語

アンドレア・ホプキンズ

まずアーサー王伝説とは何か、という問いかけから始まる。それは西暦5、6世紀頃に生きたイギリスのある国王の歴史的記録とされているが、そもそも記録自体少なく、たとえ存在している場合でも、事実を述べたものと考えるわけにはいかない。一般に、ローマ帝国の支配が緩んだ当時の英国は、さまざまな部族国家に解体されようとしていたが、それらの国を統合しサクソン族の侵入を阻止した国王がアーサー王であったと言われている。アーサー王は現存する多数のウェールズ語の詩や散文の物語に取り上げられており、ジェフリー・オブ・モンマス『ブリタニア列王記』や、複数の著者による『流布本物語群』、トマス・マロリー『アーサー王の死』などが下地になっていると考えられている。したがって、アーサー王伝説とは、信憑性の高い個人の伝記という意味合いは薄く、何百年にもわたってイギリス、フランス、ドイツなどで味付けが繰り返されてきた、文字通りの「伝説」。つまり、アーサー王は、数多の語り部と時間によって、濃い影のある歴史的ステータスを与えられた人物と言えるだろう。

本書は、アーサー王の誕生から円卓の騎士団の成立、アーサー王の宮廷の最盛期、騎士団の崩壊とアーサー王の死という、大きく3つのパートに分かれて構成されている。アーサー王伝説というと、どうしても少年向けの戦記物を想像してしまうが、本書は説話集的な性格が強く、ガウェイン、ラーンスロット、グウィネヴィア、パーシヴァル、ガラハッド、モルドレッドなど、伝説を彩るそれぞれの登場人物にスポットを当てたパートがぶつ切りに羅列されているという印象だ。それもこれも、物語自体がさまざまなエピソードをつなぎ合わされて成立したという経緯を考慮すれば当然なのかもしれないが。なお、アーサー王に関する書籍は、それこそファンタジーふうに仕立てられたものから、特定のパートのみ翻訳したもの、または玄人向けの無味乾燥な歴史書に至るまで、多数出版されている。その中で、本書は、できるだけ主要なエピソードは外さず広範囲にカバーし、かつ挿絵も豊富に収録されているため、アーサー王初心者がまず手に取って間違いない一冊と言えるだろう。


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