ちょっと前に話題になり映画化もされた作品だが、残念ながら期待外れ。面白くなかったというわけではないが、前々作の『鹿男あをによし』が、抜群の発想力と先の読めない独特のストーリー展開で非常に引き込まれたのに対し、今作はまるで凪が来たかのようなメリハリのなさに肩透かしを食らってしまった格好だった。
惜しい点を挙げるときりがないけど、やはりこの作者は小説家として丁寧すぎる。伏線の張り方やその回収方法がわかりやすすぎるため、少し起伏が見えてきたとしてもその意図や経過、帰着点がすぐに読めてしまうのだ。ある意味、小説らしい小説と言えなくもないけど、せっかく積み上げてきたキャラクターの人物像を中途半端に終わらせたところがいくつかあった点はどうにもいただけない。言ってしまえば、キャラのネーミングからしてネタバレ。
それでも、作中からは作者の「大阪愛」がビシビシと伝わってきた。巻末のエッセイでも明らかにされていた通り、この作品は作者が生まれ育った大阪を書きたかったもののようだ。ストーリー的には大どんでん返しや涙するシーンはないけど、ここは多くを求めず、作者が共有したかった(であろう)ローカルなノスタルジーに浸ってもいいのかもしれない。読書は作者との対話である、なんて言葉があるが、まさにそれが身に滲みた読書体験となった。