90年代後半の経済危機におけるIMFの手入れにより財閥が解体・整理され、国内の産業構造を一変させられてしまった韓国。その結果、サムソン、現代などの大企業が株式の大半を外資により握られ、グローバル経済を優先して国内経済を顧みることなく、株主への配当金供給のみを追及する構造になってしまった。これは、「サムソン最強!」と鼻を高くする韓国国民にとって不幸極まりない事態で、サムソンや現代が海外で儲ければ儲けるほど外国人の懐が潤うことになり、利益が還元されない韓国経済は惨憺たる状態となっている。特に、大卒の半分が就職できないという、若者に未来のない現状には目を覆いたくなってしまった。
これに追い打ちをかけるように、今年春に米韓FTAが発効した。これは単なる自由貿易ではなく、あらゆる非関税障壁の門戸を開かせ、アメリカ(グローバル企業)の都合のいいように制度を変えさせることができるところが恐ろしい。さらに、相手が言うことを聞かない場合は、国際調停機関に訴えて国内法を強引に変えさせることができるISD条項が付帯しているから始末に負えない。この機関はアメリカのお膝元にあるため、アメリカの意向が優位に働くことはあっても、韓国の主張が通ることはまずあり得ないのだ(この枠組みは、いままさに日本で騒がれているTPPと同じ条件を含んでいる)。実際、アメリカの要請により、韓国の簡保や共済は解体されるそうだ(保険市場の切り崩し)。
「日本は韓国経済に学べ!」とか「日本企業が束になってもサムソンには勝てない!」とか、さかんに韓国を持ち上げる評論家が後を絶たない。それはグローバルスタンダードを打ち立てるという意味では間違いではない。だが、韓国企業が世界で日本企業を駆逐しているというのは、単にウォン安だからであって韓国のイノベーションが生み出したものではないのだ。グローバル経済によって外資に骨の髄までしゃぶられ、インフレ&実質賃金の低下で国民がますます貧しくなっている現実など、いったい誰が望むというのだろう(現に韓国の失業率、自殺率、自己破産率、少子化は日本をはるかに超えている)。
著者の三橋貴明氏は、この韓国経済の現状こそ、日本が学ぶべき点であると指摘する。日本はグローバル経済の象徴とも言えるTPPへの参加などもってのほかで、まずはしかるべきデフレ対策を施して国内経済をデフレから脱却させることで、韓国が陥った、そしてこれから見舞われるであろう悲劇に陥らないような手を打つべきだと説く。いわば韓国経済を反面教師とするわけだ。折しも、李大統領の竹島不法上陸、天皇陛下への暴言により、日本国内の反韓感情が一気に高まり、制裁措置として通貨スワップ協定と韓国国債買い入れの見直しが検討されている。大の嫌韓である僕にとってまさに望むところではあるが、ここはマクロ経済のケーススタディとして事態を冷静に見守るというのも悪くはない。