中国に立ち向かう日本、つき従う韓国

鈴置高史

“中国の空母が韓国・済州島に寄港する日が来る”。こうした衝撃的なフレーズから始まる本書であるが、もちろん著者の空想でも観測でも、ましてや願望でも何でもない。韓国の「離米従中」をいち早く察知した日経新聞編集員・鈴置高史氏による冷静な分析の結果である。とはいえ、ここ1、2年でめまぐるしく移り変わる朝鮮半島をめぐる米中の力関係をつぶさに観察していれば、たとえ専門家でなくとも導き出せる「現実」なのかもしれない。米国からの強い要望を蹴って日本との軍事協定を反故にし(その後中国と同様の協定を締結)、さらには靖国神社放火犯の中国人を条約に基づいて引き渡すよう日本が要請したにもかかわらず中国に送還してしまった韓国の背信行為を目の当たりにすれば。

このような韓国の動向をして「韓国は中国の属国に戻った」と見る向きがある。これを我が日本に置き換えると、尖閣諸島をめぐる小競り合いに屈し中国にイニシアティブを献上することにつながるのだろうが、実際日本は弱腰なように見えて立ち向かう姿勢を見せている。それは日本が歴史的に一度も中国の属国になったことがないからであり、千年属国であった韓国とは事情を異にするというのだ。要するに、日本は中国の怖さを知らない。だから韓国人からは「日本は呑気でいいですね」と言われる。また、地政学的に中国、ロシア、日本と周辺を大国に囲まれた小国である韓国は、つねに大国の政治状況を注視し、自国の安全保障上、どちらに付くのが得策かを見極めなければならない。鈴置氏は、こうした韓国を、肝心なときに味方を裏切って妖怪側に寝返る「ゲゲゲの鬼太郎」のねずみ男になぞらえる。

韓国の情勢認識が先か、中国からの猛烈な介入が先か、それとも米国の急激な国力低下が先か。国際政治学的知見に乏しい私のような人にとっては、これを言い出すと「鶏が先か卵が先か」の水掛け論に陥りがちであるため、答えはその3つすべてに当てはまると言うしかないだろう。ただ、そのなかで韓国を中心にパワーバランスを見るのであれば、見落とせない2つのキーワードがある。それが「時代精神」「明清交代」である。

時代精神とは、先述のとおり、周辺大国の動きによってどちらに付くのか判断する「目」のこと。かつては中国、戦前は日本、戦後は米国というように、その時々のパワー保持者に付き従ってきたことから明らかだ。最近では米国という主人を見限り(米韓同盟破棄)、再び中国の懐に潜り込むのではないかと見られる動きが活発になってきている。一方、明清交代であるがこれに関しては中国の外交官の談話がすべてを物語っている。「明から清に覇権が移った後も朝鮮は明に朝貢を送り、明の風習と伝統を守った。小国である朝鮮・韓国は『変化に屈すれば生き残れない』という恐怖から、環境が急激に変わる際には萎縮する」。明から清へ朝貢を移さなかったため清から大規模侵攻を受け、朝鮮は壊滅的打撃に晒された。現代では、米中が世界の覇権を競って綱引きしているのを、韓国は身を震わせながら観望しているのだ。

いったい、ねずみ男はどちらの側(米中)に付くのか。韓国の立ち位置の変化には、国内の失業率悪化、不動産市場の崩壊、急激な高齢化など社会的な問題に加え、北朝鮮の「離中従米」という看過し得ない動きもある。これらのファクターの中に、日本はそれほど大きな割合を占めてはいない。いまや韓国世論は「反日」より「恐中」に染まっているのだという。こうした東アジアの大変動の中で、日本はどういった立ち居振る舞いをすればいいのか。それに関し鈴置氏はプロローグにて実に示唆的なメッセージを示してくれている。「鬼太郎(日本)はねずみ男の言動が怪しくなってきたとき、妖怪がこっそり近づいてくるのを感得する。韓国を観察するのはそれと似ている」。


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