中国4.0 暴発する中華帝国

エドワード・ルトワック

2000年以降の中国は「チャイナ1.0」「チャイナ2.0」「チャイナ3.0」というように、ここ15年の間に3度も政策を変更してきた。英国の対外政策は30年ごと、ドイツは50年ごと、ソ連は30年ごと、プーチンのロシアは20年ごとであるのと比べ、中国の政策がいかに目まぐるしく変わっているかわかろうものだろう。各段階における中国のスタンスは以下の通りだ。
・チャイナ1.0(平和的台頭)……中国は国力の増強に努めるが、諸外国に独自の経済ルールを押し付けるようなことは考えておらず、WTOやIMFにも加盟し、国際的な規範や制度、法律などを順守する。そのため、周辺国の警戒感を呼び起こすことはなかった。
・チャイナ2.0(対外強硬路線)……経済力はついたものの、本物の国力を手にするにはそこから50年以上かかることを見越せず、また経済成長が永遠に続くと信じ込んでいた。立場を見間違えた中国が周辺国を威嚇すればするほど、周辺国は対中で結束していった。
・チャイナ3.0(選択的攻撃)……抵抗のないところには攻撃に出て、抵抗が出ればやめる。侵略的な「2.0」よりましだが、周辺国へは中途半端にちょっかいを出し続けている。これは、中国が内政に問題が山積して外政に集中できない内向き国家だからだ。現在に至る。

この各バージョンへの移行においてキーワードとなるのが、「戦略の論理(ロジック)」。国の規模が大きくなり経済的に豊かになり、軍備を拡張するようになると、何も発言しなくても多国がその状況に刺激されて周囲で動き始め、その台頭する国に対して懸念を抱くようになるというのがその趣旨だ。「1.0」では、それを完全に押さえ込むことに成功した。「2.0」になると、弱小国に圧倒的な立場から交渉を迫れると考えてしまったため変調をきたした。強大になった中国と対峙することとなった小国が、自分と仲が良くなかった国と敢えて同盟関係を築いて中国を封じ込めようとすることでロジックは破綻した。「3.0」でも修復はできなかった。では、なぜ中国は戦略を誤ったのか。「金と権力の混同」「線的(リニア)な予測」「二国間関係」における錯誤が主因とされ、さらに、先述した内向き国家的性格により自分たちに都合の良い外の世界を発明したことによる。そのため、アメリカとのG2(新型大国関係)構築に失敗した。つまりは、「逆説的論理(パラドキシカル・ロジック)」が働いたからであり、要は、中国が強力になればなるほど、逆に力が抑えられるようになってしまったのである。

では、「チャイナ4.0」とはどのようなものになるのか。著者のエドワード・ルトワック氏は、中国にとって究極の最適な戦略であるとしながらも、現在の中国には実行不可能だろうとしている。そのひとつは南シナ海の領有権の主張を放棄し東南アジア諸国との問題を解消すること、もうひうとつは空母の建造を中止しアメリカの警戒感を解くことである。「大国は小国に勝てない」という戦略の逆説的論理を踏まえるなら、中国がさらに強大になっても、アジア地域を支配するというシナリオはまったく成り立たない。そうしたうえで、ルトワック氏は中国に対する日本が取るべきスタンスを教示する。もっとも効果的な対処法は「封じ込め」であり、極めて受動的かつ、意図的な計画は持たないままにひたすら「反応する」ことに主眼を置く政策だ。最大限の確実性と最小限の暴力。アメリカに全面的に頼るべきではなく、また日本からは何も仕掛けるべきではないとしている。日本は日本なりの戦略の論理を突き詰めていく必要がある。


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