日本と韓国は「米中代理戦争」を闘う

鈴置高史

2014年3月25日、オランダ・ハーグでの核安全保障サミットの場にて日米韓3か国首脳会談が開かれた。悪化する一方の日韓関係を改善させることを目的にオバマ大統領が主催した会談であったが、その試みは空振りに終わった。韓国の朴槿恵大統領は、安倍総理からの韓国語による挨拶を無視しただけでなく、この3か国体制を脅威と見なす中国からの圧力に屈し、ますます「離米従中」の旗幟を鮮明にした。この傾向は2013年9月のヘーゲル米国防長官が訪韓した際から現れており、朴大統領はヘーゲル長官からの日米韓軍事協力の申し出に対し、「日本が従軍慰安婦問題で誠意を見せていない」ことを理由に断った。その後、バイデン米副大統領、ケリー米国務長官が相次いで訪韓したが、その際も「日本問題」を煙幕にして米韓同盟をないがしろにしている。こうした経緯により、オバマ大統領は踏み絵の意味を込めてハーグでの日米韓3か国首脳会談を呼びかけたのだ。アメリカにとってみれば、その翌月に予定されていたオバマ訪韓をテコにし、もし韓国が歴史カードを振り回し安倍首相と会うと言わなければ、訪韓を取り消すと脅すこともできたわけだ。

これに対し、韓国はアメリカの要求通り、3か国首脳会談を渋々受け入れるが、その代わりに直ちに中韓首脳会談の開催を中国に持ちかける。もちろん中国に対し「反中連合に加わったわけではありません」と身の証を立てるためだ。しかも、韓国で中韓首脳会談をを発表したのは青瓦台で、3か国首脳会談は外交部。通常、大統領の会談は青瓦台が発表するのだが、これにより朴大統領はアメリカを中国より格下に扱ったのである。韓国外交史上、初めてのことらしい。韓国の先祖返りだとか中国恐怖症だとかさまざまに言われているが、韓国はアメリカとハイレベルの軍事協議をした後、情報機関のトップを直ちに北京に送り内容を中国共産党トップに報告しているという事実(アメリカ軍最高幹部筋)からして、中韓の宗属関係はいまもなお継続していると見て間違いない。なにせ、アメリカが主導する世界では韓国は日本より格下だが、中国が主導する世界(華夷秩序)では韓国はNo.2になり日本は化外の地に転落するのだから。

そんな中、7月3日、中国の習近平国家主席が韓国を訪問。この席で、朴大統領は習主席と一緒になって日本の集団的自衛権の行使容認を厳しく批判した。行使容認を「対中軍事包囲網強化の一環」と見なす中国が、日本を批判するのはある意味当然だが、アメリカの同盟国でありそれにより防衛力強化が図れる韓国が反対したのだ。アメリカ肝いりの集団的自衛権の問題で韓国と中国はそれを打倒する共同作戦に出たということを意味する。韓国の保守系紙は憂慮を表明したが、一般の韓国人は「頼りになる習近平」の訪韓に大喜びしたし朴大統領の支持率も上がった。韓国はルビコン河に飛び込み、中国という向こう岸に泳ぎ始めた。アメリカと中国という超大国に睨まれながら、韓国はどう立ち回るのだろう。韓国の保守系サイト上の記事がいみじくもその結末を暗示している。「朴大統領はいま、国力以上の外交をしているようだ。預金残高以上の手形を振り出せば不渡りを出すように、国力を超えた強硬策を展開すれば、外交的な不渡りを出しかねない」。


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