孤立する韓国、「核武装」に走る

鈴置高史

地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD)の在韓米軍基地への配備をきっかけに、韓国が親米派と親中派に分裂した。米中を競わせ、双方から利を得るという朴槿恵大統領の二股外交がもろに裏目に出た結果だ。韓国は米国との同盟を続けるのか、それを打ち切って中国側へ行くのか。展開を読むにあたって注目すべきことが3つある。まず、THAAD配備に反対していた中国から激しく脅され、離米従中を加速させる「恐中心」が復活したこと。2つ目は、米中板挟みの苦しさから逃れるのは「核武装」したうえで中立国になるしかないとの思いが芽生えたこと。3つ目は、国が危機に直面する中、指導層が現実から遊離した議論にふけっていることだ。そんな中、米国のオバマ大統領が2016年5月27日、広島の平和記念公園を訪れた。その際、オバマ大統領が韓国人慰霊碑に足を運ばなかったことに対し、「小ずるい日本がオバマを騙して米国から免罪符を得た」として米国を逆恨みした。韓国人らしい独りよがりの感情論でますます離米が進んでいく。

7月8日、在韓米軍へのTHAAD配備が正式に決まると、親米派と親中派との間で国論の分裂が深刻化する。韓国は歴史的に、外からの脅威に晒されるたびに国論が分裂し内紛を起こして亡国の危機に貧してきたわけで、壬辰倭乱7年戦争と丙子胡乱の教訓が呼び起こされた。壬辰倭乱7年戦争(文禄・慶長の役)前、偵察のため日本に渡った朝鮮朝の使節が「秀吉に進攻意図あり」と見抜くが、「誰が語るか」、つまり党派性を重んじた朝廷により報告は無視された。一方の丙子胡乱では、明から清への交代を読み誤り、明を倒した清に攻められ悲惨な敗戦を喫した事件だ。THAAD配備で一旦は米国側に踏みとどまった韓国だったが、中国が露骨に報復を匂わせてくると、怯えてますます中国の顔色を見るようになる。そんな韓国を中国が金縛りにしたのが、南シナ海問題だ。中国不利の判決に、日米両政府は「紛争当事国は判決に法的に拘束される」と強い調子で求めたが、韓国は「平和的な解決を求める」と曖昧な表現に留めた。やはり韓国は本能的に中国の冊封体制下にあるのだ。

そして、8月24日の北朝鮮のSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)と、9月9日の5回目の核実験により、韓国で核武装論が勢いを増した。隠密性の高い潜水艦から核弾頭を載せた弾道ミサイルを撃ち込まれたら防ぎようがない。これに対抗するにはこちらも核兵器を持つしかない、との主張だ。現に、SLBM搭載型3000トン級潜水艦の建造を進めていると発表した(SLBMは核弾頭を積むために保有するのが普通)。韓国は約110年前に、米国のセオドア・ルーズベルト大統領から「自分のために『一撃』も加えることのできなかった国のために、米国は介入できない」と言われ、日本の植民地に転落した。この苦い記憶を基に「『一撃』できる能力」を持とう、つまり韓国も核武装しようという世論が高まってくることが十分にあり得る。被爆国でない韓国では核武装に抵抗はないという。米国側に戻ったと思わせておいて片足を中国側に置いたままの韓国。ただでさえ外交が大きくぐらついているうえ、親友の国政介入問題で朴大統領が辞任することとなり内政にまで激しい歪が生じてきた。日本としては、これを対岸の火事として傍観していいわけがない。


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