「三面楚歌」にようやく気づいた韓国

鈴置高史

2014年7月の中韓首脳会談で、朴槿恵大統領は習近平中国国家主席と一緒になって日本の集団的自衛権の行使容認を批判した。中国に接近する姿勢を鮮明にした韓国に対し、米国は激怒し「このままでは中国の属国に戻るぞ。それでいいのだな」と韓国を厳しく叱った。韓国は米中の強力な支持を背景に日本と北朝鮮を叩いているつもりだったが、米国からも睨まれたことから、ここに来てようやく“三面楚歌”に陥っていることに気がついた。慌てて米国重視に軌道修正すると、今度は中国から宗主国意識丸出しの恫喝が飛んでくる。米中のうち、勝ったほうに付こうと「二股外交」に腐心していた韓国は、中立へと舵を切りだす。その姿は、19世紀末から20世紀初めにかけて、清、日本、ロシアという大国の間で動揺した朝鮮朝と二重写しだ。

日米朝との関係がギクシャクする中、いい関係にあるのは中国だけという意味の“三面楚歌”。日米が中国の脅威を前に同盟を強化しだし、断絶状態だった日朝も拉致問題で交渉に動き始めた。日朝の距離が縮まれば、米朝関係も改善する可能性が大。そんな中、もし日本が首脳会談などを通じて中国との妥協を見出し始めたとしたら、韓国は唯一の味方を失い、三面どころか、文字通り四面楚歌に陥ることになると危機感を募らせる。韓国の主敵は北朝鮮であって絶対に中国ではない。それどころか、中国は韓国にとって経済的にも、北朝鮮の軍事行動を抑えるにも頼りになる、極めて大事な友好国。一方、米国の主敵は中国であって北朝鮮では決してない。だから米中関係が先鋭化するほどに米韓同盟は揺れるのだ。そのため、米国が韓国に対して突きつけた新たな踏み絵、終末高高度防衛ミサイル(THAAD)配備の一件で、韓国国内は米中の間で再び激震に見舞われることとなった。

米国の安全保障専門家は、韓国に言及する際に不快感を隠さなくなった。韓国が誠実な同盟国ならまだしも、中国の支持に従って言うことを聞かなくなり、さらにそこを指摘すれば奇妙な理屈をこねて自己正当化しようとするからだ。在韓米軍縮小や戦時作戦統制権の問題に関しても、「出て行け!」「返せ!」と大声を出すものの、途端に「まだいてくれ」「まだ持ってくれ」となる。これはもう「情緒で動く国だから」としか説明のしようがないわけだが、対馬仏像盗難事件や産経新聞韓国大統領名誉毀損問題などを知っている私たち日本人にとっては、これ以上得心のいく説明はないだろう。また、「法治」ではなく「徳治(情理)」というシステムにより国が動いていることを理解することも韓国を見極める上でのひとつの手がかりとなる。本書では、この「韓国的なるもの」についても詳述している。

つい最近も、韓国は中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)への参加を表明した。“三面楚歌”により中立を模索していた中での表明なわけだが、韓国の中立化はほぼ「中国化」を意味するという分析に注目したい。米韓同盟のおかげで韓国は中国にのみ込まれないで済んでいるだけで、距離的にも心理的にも韓国は中国に極めて近い。両国のFTAにより、儒教国家同士の親和性がさらに深まることで、制度的な中立化は「事実上の中国化」と見なすべきだという。もう引っ込みのつかないところまで来てしまった感のある韓国だが、これを反日国家の異常性と見るべきか、それとも地政学上の宿命と見るべきなのか。今後も継続していくであろう本シリーズを通してじっくりと観測していきたいと思う。


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