「中国の尻馬」にしがみつく韓国

鈴置高史

2015年秋、日本と韓国は完全に異なる道を歩き始めた。日本は安全保障関連法を成立させ、米国をはじめアジア・太平洋諸国とTPPの創設に合意。いずれも米国や「海のアジア」と手を組み、膨張する中国を封じ込めるのが目的だ。一方の韓国は、日本の安保関連法には中国とともに懸念を表明し、TPPには中国の顔色をうかがい不参加。そのうえで、米国の反対を無視してアジアインフラ投資銀行への参加を決めた。中でも、韓国が大陸側に戻ったことを世界に実感させたのが、9月3日に中国が天安門広場で開いた抗日戦勝70周年記念式典に参加したことだった。米国とその同盟国を狙う核ミサイルが行進するのを、朴槿恵大統領は習近平国家主席やロシアのプーチン大統領ともども観覧したのである。もう韓国の「離米従中」は止まらない。中国からつきつけられた踏み絵を一つひとつ踏んでいくうちに、韓国人は中国の傘下で生きていく覚悟を固めたのだ。

そんな韓国が核武装を訴え始めた。朝鮮日報で、「今後、北が核によって挑発してきた時に、米国の拡大抑止の実効性がないことが確認された場合には、韓国も核武装すると予告しておくのが核選択権だ」という社説が掲載された。即座の核武装ではなく核武装するという選択肢を持つということだが、ここでは米国の拡大抑止、要は「核の傘」が破れかけているのではないかという不信感が滲み出ていることに注目したい(このあたりは日本の核武装論者の理屈と同じだが)。被爆国である日本とは異なり、韓国人には核兵器への忌避感が薄いため、国民の約3分の2が核武装に賛成しているという。米国にとっては、朝鮮半島に「核の均衡」ができることとなるわけだが、韓国の主敵は北朝鮮であって中国ではない、米国のそれは中国であって北朝鮮ではない、と米間同盟は主敵が完全に異なってしまうこととなる。つまり、米間同盟は破綻しつつある。

こうした韓国の中国傾斜は相変わらずだが、日本に対する高飛車な態度も留まるところを知らない。7月5日、明治日本の23カ所の産業革命遺産がユネスコの世界遺産として登録されたが、韓国政府は朝鮮人労働者が強制労働させられていたと主張し登録に反対。結局、日本政府がこれに言及することで両国は妥結した。微妙なニュアンスだったため、案の定、韓国が日本の言質を都合よく解釈し、慰安婦と併せて攻勢に出てきた。著者の鈴置高史氏はこれを「卑日」と定義する。反日は日本からモノなりカネなり何かを得ることが目的だったが、卑日とは世界の人々の前で日本と揉めて日本の悪行を広く知らしめること。多くの韓国人にとって、屈辱の歴史を隠すことよりも、日本を世界で貶め、快哉を叫ぶことのほうが重要なのだ。レームダックに陥りつつある朴大統領がこれを利用しないはずがない。

ほかにも、戦後70年談話いわゆる安倍談話に対する韓国の反応や、中国主催の抗日式典で明らかになった韓国の朝貢外交、米国が突きつけた「南シナ海」という新たな踏み絵など、米中間における韓国が示した動向について読みどころは多い。本書が12月15日に刊行された後、日韓慰安婦合意、北朝鮮の水爆実験というビッグイベントが立て続けに起きた。この件について詳述するであろう次回作がいまから待ち遠しい。


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