前作「中国に立ち向かう日本、つき従う韓国」にて、没落しつつある米国の庇護から脱し、台頭著しい中国へと傾斜しつつある韓国の姿を浮き彫りにした鈴置高史氏。その続編となる今作では、「離米従中」の旗幟を鮮明にした韓国が、米中との綱引き外交にもがきながらも、ついにはかつての宗主国である中国の属国という従来のポジションに落ち着こうとする動勢を、具体的事例や専門家との対談を交えながら解説。激動する国際政治の必然性や、東アジアにおける地政学的要因だけにとどまらず、数千年に及ぶ中国大陸と朝鮮半島の歴史を紐解きながら、中韓両国の間で何が起こっているのか、そして今後何が起こるのかを展望する。
2013年6月の中韓首脳会談における共同声明で、安保、経済に続いて「人文紐帯の強化」がうたわれた。人文紐帯とは要するに、学術や伝統芸能の交流事業を実施するとのことであるが、その本質は米国との価値同盟に対する「人文同盟」と位置づけるところにある。中韓は民主主義や市場経済といった価値観では相容れないが、隣国同士ということで歴史や文化を長く共有してきた。これは単にソフト面での民間交流を促進しようという穏健な計らいではなく、外交において米国一辺倒をやめ、中国を軽視しないという韓国による意思表示なのである。韓国社会では「これからは経済でも安全保障でも、米国より中国に助けてもらうことが多くなる」との認識が一般化しているというのだ。
米中間のパワーバランスが歪み始めたことを鋭く察知し、素早く行動に移した韓国。そうした動きを中国が黙って見ているはずがない。中国寄りに傾きつつあるとはいっても、いまだ米国との軍事同盟は継続中であるし安全保障の多くを頼っている状況に変わりはなく、中国からは、韓国は米中両国を天秤にかけた二股外交に見えるのだ。ここで中国は、宙ぶらりん状態の韓国に酷烈な踏み絵を突きつける。それが「朝鮮半島の非核化」を餌にした「在韓米軍撤収=米韓同盟破棄」の要求である。北朝鮮による核の脅威につねに怯えている韓国では、国内で核武装の論議が盛んで、実に国民の6割程が賛成しているという。そうした中、そもそも元凶である北の核を中国が取り上げてしまえば、韓国が核武装する根拠がなくなり、また中国が北を押さえつけている限り在韓米軍が駐屯する理由もなくなる。中国にとってみれば核を持った属国など欲しくないし、何より北京まで1時間ほどで飛来できる米軍機が疎ましくて仕方ない。韓国が中国大陸の懐に平和的に収まろうとするなら、それなりの手土産が必要ということなのだろう。
一方、米国も韓国の二股外交に苛立ちを募らせている。米国に対する忠誠の踏み絵として使われたのが、対中包囲網であるMD(ミサイル防衛)への参加要請だ。このほかにも、戦時作戦統制権の返還問題(2015年12月に戦争時の統制権を米国から韓国に返還予定)など、米中間で揺れる韓国の足元は一向に固まることはない。中韓首脳会談の後に行われた米韓首脳会談で、朴槿恵大統領がオバマ大統領から大歓迎を受けたとして、日本より好待遇だと大はしゃぎしていたが、米国側の意図を察していないとすれば脳天気どころの話ではない。今後熾烈さを増す米中関係の間で、韓国がどのような立ち回りを見せるのか。これは見世物でもなんでもなく、日本と無関係ではないだけに、いっそうの注視が必要だ。
なお、本書は昨今の日韓関係についても詳しく触れられており、従来の「反日」というスタンスが「卑日」に変わっているという指摘がある。「反日」が弱い者が強い者に抵抗するイメージであり、「卑日」が優れた者が未熟な者を教え諭すというイメージ。その背景に、失われた20年による日本の国力が損なわれてきたということもあるが、そのもっとも大きな要因は韓国人のDNAに刻み込まれた華夷意識の復活である。世界の中心である中華帝国(中国)に回帰した韓国にとっては、日本は化外の地であるため「俺の後ろには中国様がいるのだぞ。だから俺の言うことを聞け」という上から目線の態度を取る。こうしてみると、ここ最近、韓国が海外で慰安婦像を建てたり日本の戦争犯罪をさかんに吹聴している理由がよくわかる。つまり、先祖返りした韓国は、主人である中国から頭をなでてもらいたく、しきりに中国を喜ばせようと点数稼ぎに精を出すのだ。こうした韓国の動勢が終わらない限り、日本は神経を逆撫でされ続けるということなのだろう。