お金の流れでわかる世界の歴史

大村大次郎

世界史の中でお金、富、財がどう蓄積され、どう流れていったのか。著者の大村大次郎氏は、序章にて、これを本書のテーマとしたとしているが、やはり「お金」こそが世界史をつくったと言いたかったのではないか。そう思えるほど、財や富を求めることが人類の歴史という視点に立脚した本書の構成は充実している。中でも、国の栄枯盛衰における一定のパターンを軸とした論理には説得力がある。徴税がうまくいっている間は富み栄えるが、やがて役人たちが腐敗していくと国家財政が傾く。それを立て直すために重税を課し、領民の不満が渦巻くようになる。そして国内に生まれた抵抗勢力や、外国からの侵略者によって、その国の政権は滅んでいく。古代エジプトはまさに王道的な顛末をたどって衰退していったし、ローマ帝国も腐敗した官僚たちによる脱税などが原因となって分裂、その版図を縮めていった。

そんな中でも、お金をうまくコントロールし、世界史に楔を打ち込む一大勢力を築き上げた大帝国がある。イスラム帝国だ。「イスラム教に改宗すれば人頭税を免除する」というマホメットの教えにある通り、イスラム帝国の徴税業務は征服地においても寛大なものだった。たとえば、イスラム帝国征服以前のエジプトでは、土地税を金貨または銀貨で納めなければならなかったが、穀物など領民にとって都合のいいもので納めればよいとした。さらに、占領地から撤退するときには税の還付まで行っていたという。こうした徴税業務により急速に勢力を伸ばしたイスラム帝国だが、衰退したきっかけもまた税であった。マホメット以降の指導者たちは、税の徴収を地方の役人に下請けさせたため、勝手に人頭税を引き上げられるなどして反感を呼んだというわけだ。また、世界史に巨大なインパクトを残したモンゴル帝国。こちらは土地に対する執着がほとんどなく、占領地の文化を容認、受容したため、アジアからヨーロッパにまたがる世界交易を築き上げたことは特筆に値する。

ほかにも、本書では古代から現代に至る通史をなぞりながら、国家が生まれ栄えそして滅んでいく様を詳らかにしていく。スペインとポルトガルが新大陸から持ち込んだ金銀がもたらした影響、ドレークを筆頭とした海賊を利用して一大世界帝国を築いたエリザベス女王、国王の借金を国債で賄う世界初の組織イングランド銀行、陰謀論でおなじみロスチャイルド家の興隆、明治日本が世界に見せつけた輸出力など読みどころは多い。さて、言うまでもなく、いま現在においても歴史は進行している。いまこの時間こそが歴史になっていくのだ。そのため、冒頭で触れた国の衰退のパターンが俄然色味を帯びてくる。国が傾くのは、富裕層が特権をつくって税金を逃れ、中間層以下にそのしわ寄せが行くとき。だから、国を長く栄えさせるには、税金を逃れる特権階級をつくらないことこそ肝要なのだ。貧富の格差が拡大し続けている昨今の日本、傾国の兆しが感じられなくもない。


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