中国に勝つ 日本の大戦略 プーチン流現実主義が日本を救う

北野幸伯

「日中戦争は、もうはじまっています」という書き出しでスタートする本書。中国崩壊論や日本絶対主義を謳う本が書店を賑わしている昨今、とりとめて過激な言い方には聞こえなくなっているかもしれない。いや、聞こえなくなっているというより、こうした傾向に馴らされてしまって危機感はおろか、二番煎じ三番煎じに思われ一顧だにされない可能性もあるのではないか。たしかに、いますぐにでも中国の瓦解が始り日本が大復活するといった荒い鼻息の本が何冊も出版されては、読者をがっかりさせてきた。その理由として、それらの本の内容がまったくデタラメかというとそうではなく、共通して言えることがある。それは、ほんの一時期の現象や出来事を殊更に取り上げ、都合よく符合する過去の事例と関連させたうえで一方的に結論付けていることだ。もちろん、すべてがそうとは言わないが、あまりに短絡的でこじつけじみていて威勢が良かったりするので、思わず苦笑いしてしまうこともある。私自身、「アメリカ一極時代の終焉」「日本はサバイバルできない」「昇る中国に落ち目のアメリカはかなわない」など、使い古された言葉に聞こえてしまうこともある。なぜか。それらの本が歴史や国家が持つ「宿命」に触れていないからだ。本書もそのうちの一冊なのだろうか。国際関係アナリストの北野幸伯氏が明かす、歴史のサイクルに基づいた「大戦略」を紐解いてみたい。

なんらかのきっかけで「頂点に立った」と思った時、その人、その国の本性が明らかになる。「平和的台頭」を掲げ、年間ふた桁の成長率を維持してきた中国も例外ではない。いや、中国の場合、国力を高めるため機を窺いながら雌伏しているかのようであった。その狙いが結実したのが、中国主導の反日統一共同戦線の構築だった。尖閣中国漁船衝突事件、日本の尖閣国有化を経て、日中関係が険悪なものになっていくと、2012年11月、中国はモスクワを訪問。中国、ロシア、韓国で反日統一共同戦線をつくることを提案すると、3国で日本の領土要求を断念させ、沖縄の日本領有も認めないとしたほか、日本の同盟国であるアメリカも戦線に参加させることをも話し合われた。アメリカを引き入れる根拠として、中国とアメリカは共に日本の軍国主義と戦った、だが日本はその結果を認めておらず再び軍国主義が復活してきている、だから日本を叩き潰さなければならない、とこうだ。安倍政権になってからの靖国参拝、憲法改正、歴史見直し要求が槍玉に挙げられているのだ。オバマ政権で迷走するアメリカは中国へ徐々に接近していき、日本は中国の仕掛けた罠に嵌りつつあった。

しかし、安倍総理はこの中国による包囲網を無力化することに成功する。2014年のウクライナ革命、その後のロシアによるクリミア併合でアメリカの側に立ち、さらには中国が起ち上げたアジアインフラ投資銀行(AIIB)に西側諸国がアメリカの制止を振り切ってこぞって参加する中、参加を見送った。アメリカが覇権国家ではなくなったことを如実に知らしめる出来事となったが、日本だけがアメリカを裏切らなかった事実は日米関係を好転させる結果につながった。これに引き続き、2015年4月、安倍総理はアメリカ上下両院合同会議にて演説。日米同盟を強固なものにするという目的のもと、歯の浮くようなスピーチ、演出であったように思えるが、見事成功させ、オバマ大統領の心をガッチリ掴み取った。その後、韓国との慰安婦問題合意、ロシアとの経済投資などで関係を改善。ここに、中国による日米分断阻止だけでなく、反日統一共同戦線を無力化させたのだ。

これで日本は永遠に安泰になったと思うのであれば、相当のお人好しと言えるだろう。今後中国が自重して文字通りの平和共存を求めてくることは考えづらく、さまざまな手札を用いて覇権をつかもうとしてくることは明らかだ。では、中国の野望を頓挫させ、日本を守り抜くためにはどうしたらよいだろうか。言うまでもない。「中国に勝つ」方法を編み出すことだ。「勝つ」ということは、軍備を整えたり兵隊を増員するなど戦術的な面ももちろん含まれるが、北野氏が本書で最も強調している「大戦略」を練り上げることにほかならない。大戦略とは、誰が敵で、誰を味方につけるのか、はっきりさせること。具体的には、第2次世界大戦の日本を思い起こしてみればいい。日本は中国に対し連戦連勝だったが結局最後に敗北した。逆に、中国は連戦連敗だったが結局最後には勝利した。なぜか。中国は、アメリカ、イギリス、ソ連を味方につけていたからだ。この歴史をくだんの反日統一共同戦線と重ね合わせてみると、恐ろしいほど一致することに背筋が寒くならないだろうか。中国は、アメリカ、ロシア、韓国と一体化して日本を潰そうとしていたのだ。気をつけなければならないのは、なにも中国は思いつきでこうした行動に出たのではない。国家のライフサイクル上、避けられない宿命に突き動かされたのだ。いまはまだ座視していられるが、これから国家の成長期を終え成熟期を迎えると、国内のあちこちで矛盾が露呈し民生が乱れる。そうすると中国はどういう対応をしなければならないか。それと同時に、日本は大戦略を構築し直す必要が生じてくる。

新たな大戦略のカギとなるものとは――。本書を手に取って一緒に考えてほしい。


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